9月26日に2023年度地域活動支援事業最終報告会が行われました。
スマート・テロワール協会は中核事業として地域活動支援事業を展開しています。
農村、農業を中核とした循環型地域経済圏の構築を目指す、スマート・テロワール構想の実現に向けて、地域で活動する団体や個人の取り組みを支援する事業です。
協会の支援は次の3種類が用意されております。
l 資金支援:予算総額は200万円を用意し、支援対象プロジェクトに対し年間最大100万円を支援します
l 助言支援:支援対象プロジェクトに対し、協会役員(理事、監事、顧問)からアドバイバイザーを選任して支援します
l 協業支援:支援対象プロジェクトに対し協業者を推薦、紹介して支援します
毎年6月に支援対象プロジェクトを公募し、8月末に対象プロジェクトを採択します。
対象事業に選定されたプリジェクトは年間活動計画に沿って活動を展開し、年度途中で協会会員も参加する中間報告会を実施し、協会役員からのコメント、アドバイスを受けます。
1年間の活動を終えて9月に最終報告会を開催し、活動の成果と今後の方針、計画を確認します。
23年度は次の2団体が支援事業として選定されそれぞれ活動を展開してきました。
l 月山の粉雪普及実行委員会
l (一社)KURUKURU
この2つのプロジェクトの最終報告会が9月26日に開催されました。報告内容を以下にかいつまんでご紹介いたします。
月山の粉雪普及実行委員会の報告内容紹介
山形県鶴岡市の月山高原に100haほどの畑地が広がっています。戦後入植した約100名の生産者が耕地としてアスパラガス、タバコ、枝豆など栽培していました。近年生産者が高齢化し、ほとんどが休耕地になっていました。この農地を借り上げ集約、整地化して、小麦を栽培、収穫することを目指し、鶴岡市の生産者によって月山高原生産者委員会が結成され、21年に農地集約と、整地そして小麦の栽培が始まりました。
23年には約30haの農地集約が実現し、小麦栽培が行われました。同時に収穫した小麦を製粉し、販売する活動が始まりました。
日本の製粉業は輸入小麦の製粉に特化し、製造ロットを大規模化して稼働率を上げるというビジネスモデルで経営されています。従って農家が国産小麦の栽培に着手しても製粉会社のロットサイズに見合う規模に栽培量を拡大するまでは、製粉にかなりの困難がつきまといます。
この困難を乗り越えるために、今回のプロジェクトでは小ロット製粉が可能な石臼で製粉する近隣の玉谷製粉所と協働することにしました。
石臼製粉は小麦を挽く温度が高くならずその分香りが高く、また表皮や胚芽が残る全粒粉なので色合いが茶色っぽくなりますが栄養価が高いという特徴があります。したがって石臼製粉の小麦粉は麺やパンなどの製品にしたときに独特の高い香りを楽しめることが顧客価値になります。
今回のプロジェクトでは当初、「月山の粉雪」というブランドで小麦粉の販売を目指したものの大きな需要を獲得することにはならず、この小麦粉を原料とした加工品開発をして販売する方針を立てて活動を展開しました。
これまで生パスタ、焼きそば、うどん、そうめん、中華麺の加工品開発に着手し、今秋から鶴岡市内の地元スーパーでの販売に漕ぎ着けるまでにいたりました。
今後は鶴岡市の消費者のリピート購入につながるよう、消費者の声を聞きながら、商品の改善を進め、継続的な販売を目指していくことになります。
また庄内地域のレストランのシェフに小麦粉や加工品を提供するとともに、シェフの要望に合わせたカスタマイズを施す試みを始めています。この挑戦によっても食の専門家から、小麦粉自体とその加工品の改善そして加工品開発のヒントを得てゆくことができそうです。
今回のプロジェクトは生産者、製粉工場、加工品工場、スーパー、そしてレストランのシェフなどの地元の協力者の協働を引き出しながら循環型の地域経済圏構想への第一歩を踏み出す成果を得ました。
今後の庄内スマート・テロワールの歩みに注目してまいりたいと思います。
(一社)KURU KURUの報告内容紹介
広島県安芸高田市で活動するグループです。今回支援対象事業に応募したプロジェクトは、地域で栽培されているもち麦やはと麦を製粉して近隣の飲食店に提供すれば、付加価値が加わって持続可能な循環が生まれるのではないかという仮説からスタートしました。
まずは石臼製粉機を購入してはと麦、もち麦の製粉システムを完備することからスタートしました。続いてはと麦粉、もち麦粉を原料とする加工食品を開発し、市販することに挑戦しました。
加工食品は美味しいと身体に良いの両立をコンセプトした、漢方デザートの領域を選びました。具体的には、はとむぎプリン、もち麦プリン、もち麦甘酒を開発しイベントでテスト販売しました。販売は好調に推移し、試作した製品は完売しました。
しかしここから先の展開のストーリーを描くことができずに、原点に戻って事業のコンセプトそのものを見直すことになりました。
その中で自分たちの強みについて深く検討する中で次の潜在的なポテンシャルを活かせないかということになりました。
l プロジェクトメンバーが母であることで、母である消費者と共感をもって繋がること
l 管理栄養士・保育士・助産師とのネットワークがある
l 商品企画・開発のスキルがある
この強みを前提に次のような事業方針を創案しました。
l 広島県の農産物の約40%を占める、「米」の規格外品をベースに、グルテンフリーやシュガーフリーなどの機能性を全面に押し出したベビー・幼児向けフードを提供します
l 農産ブランドとして、地域の農産物にプラスアルファの付加価値を与えたバリエーション展開をしていきます
この方針を前提として次のような事業企画が創出されました。
l 環境保全型農業の特定米穀の価値化及び加工(特殊選別精米技術をもつ企業と連携)
l 米をベースとしたグルテンフリー・シュガーフリーの加工品開発
l 「Farm to baby」という離乳食ブランドで販売チャネルを構築
具体的には幼児用の離乳食を提供することになりますが、二つのポイントがあります。
l 減農薬、減肥料さらには有機栽培の米穀の規格外品を原料とする
l 米飴、米蜜などコメ由来の甘味料を使う
環境保全型農業の特定米穀を活用することで消費者の安心安全への期待に応えることができます。また規格外の米穀を使うことで原料コストを抑えることが可能になります。つまり高付加価値低コストの価値提供が可能になります。
こうしてグルテンフリー、シュガーフリーの甘糀、ホットケーキミックス、赤ちゃん用スナックなどの商品開発が軌道に乗り、amazonで発売開始に至りました。
この路線に乗って赤ちゃん煎餅、ボーロ、米粉マカロニの開発も鋭意進捗しています。
以上の取り組みを通して、農業の活性化と持続可能な社会の実現、すなわち社会問題の解決と経済性を両立するソーシャルビジネスを確立できるという見通しが見え始めました。
各団体の報告で利用された資料を添付いたしますので、ご参照ください
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