ロシアとウクライナは豊穣な穀倉地帯を抱える世界有数の食料供給基地だ。その供給機能がロシアのウクライナ振興によって破壊されつつある。
3月23日付け日経新聞に拠って状況を把握してみよう。
1. 現在ロシアとウクライナはそれぞれ世界1位と5位の小麦輸出国で、合計で世界の年間販売量の29%を占める。
2. 一部の不作や新型コロナウイルス下の買い占め、その後のサプライチェーンの混乱を経て、世界の在庫は5年平均を31%下回っている。
3. 2月中旬に2021年までの5年平均を49%上回っていた小麦価格は、2月24日のロシアのウクライナ侵攻開始からさらに30%上昇している。
4. ロシアとウクライナを合計すると、世界で取引されるカロリーの12%を輸出している計算になる。両国は、大麦やトウモロコシからヒマワリまで、人間や動物が消費する多くの油糧種子や穀物の輸出国トップ5に入る。ロシアは肥料の主原料の最大供給国だ。肥料がなければ作物は弱り、栄養価が低くなる。
5. 侵攻の影響は3つの形で表れるだろう。
(1) 現在の穀物輸送が混乱し、
(2) ウクライナとロシアにおける将来の収穫が減少または入手不能になり、
(3) 世界の他地域で生産が減退するというものだ。
6. 輸送面
(1) 平時の場合、小麦や大麦は夏に収穫され、秋に輸出され、2月にはほとんどの出荷が終わっている。
(2) 現在は、ウクライナの港は閉鎖されている。爆撃を受けた港もある。ウクライナ北部経由でポーランドへ抜ける内陸ルートは、あまりに遠回りで現実的ではない。
(3) ロシアの穀物を積み込もうとする貨物船は黒海で砲撃を受けている。しかもほとんどの場合、保険契約ができない。
(4) さらに気がかりなのは、世界の13%近くをウクライナが占めるトウモロコシの輸出が、例年春から初夏にかけて行われることだ。平時にその大部分を出荷するオデッサ港はロシアの攻撃に身構えている。
7. 将来の収穫への懸念
(1) ウクライナではロシアによる侵攻の影響で収穫高や作付面積が減少する可能性がある。10月に作付けされる小麦や大麦などの冬作は、肥料や農薬不足で育ちが悪いかもしれない。
(2) トウモロコシやヒマワリなど、例年なら間もなく作付けが始まる春作は、見送られる可能性もある。ウクライナ中部の農場で年間7000トンの小麦を栽培するレオニード・ツェンティロさんによると、ディーゼル燃料や、害虫や病気から作物を守る農薬である植物保護製品の現地価格は2週間で50%値上がりしている。彼の従業員の一部は戦闘に駆り出されているという。
8. 紛争が世界の農業に与える影響。
(1) この地域は天然ガスやカリウムなど重要な肥料原料の一大供給地だ。ロシアの侵攻開始前でさえ、肥料価格は種類によりすでに2~3倍に上昇していた。背景には、エネルギー高や輸送費上昇に加え、世界のカリウムの18%を生産するベラルーシが反体制派の弾圧を理由に、21年に経済制裁を科されたことがある。
(2) 世界のカリウム生産の20%を占めるロシアの輸出が困難になれば、価格がさらに上昇することは間違いない。英調査会社CRUのハンフリー・ナイト氏は、世界のカリウムの約8割が国際取引されていることから、価格高騰の影響は世界中のあらゆる農業地域に及ぶと警鐘を鳴らす。
(3) 一方、肥料とエネルギーの価格上昇に伴い、世界各地で農家の利ざやが圧迫されそうだ。ブラジルの新興企業ベルデ・アグリテックのクリスティアーノ・ベロソ氏によれば、食肉や農産物の一大生産国である同国は、カリウムの46%をロシアかベラルーシから輸入している。
(4) 保護主義が火に油を注ぐ可能性もある。肥料輸出に対する各国の規制は21年に増加しており、この傾向は加速するかもしれない。食品輸出が制限されたり、輸入側がパニック買いに走ったりすれば、07~08年に多数の国で暴動が起きたような価格高騰を招く恐れがある。ロシアとウクライナは8日と9日にそれぞれ小麦輸出を禁止した。アルゼンチン、ハンガリー、インドネシア、トルコは最近、食品の輸出制限を発表している。
9. 解決策はない。
(1) 小麦は毎年1億6000万トンが動物飼料に使われており、その一部を人間の消費に回すことは可能だが、代用すれば他の主要食品にインフレをもたらしかねない。欧米で生産量を増やし、インドの膨大な戦略備蓄を活用すれば、1000万~1500万トンと相当な供給量を生み出せるが、それでもウクライナとロシアを合わせた年間輸出量の3分の1に満たない。
(2) さらに遠隔地からの供給もあり得るが、ネックがある。豊作だったオーストラリア産冬小麦の輸出拡大に取り組んだ結果、国内の農場と港を結ぶサプライチェーンに目詰まりが起きているのだ。
(3) トウモロコシは22年に3500万トンの不足が見込まれており、各国政府はバイオエタノールの生産に用いられる1億4800万トンの一部を利用して不足を補う可能性がある。
(4) 肥料不足の穴埋めはさらに難しい。カリウム鉱山の新規開発には5~10年かかるからだ。
ロシア、ウクライナ、ベラルーシは食料供給のみならず肥料の供給基地でもある。
この地域からの食料と肥料の供給が停止ないし激減すれば、世界は深刻な食糧危機に陥る。
日本はこの地域からの小麦、トウモロコシの輸入はほぼゼロに近い。まずは価格の上昇に見舞われ、続いて供給量の減少に悩まされることになるだろう。
農水省の政策はどうなるか。以下の筋書きが考えられる。
1. 飼料米の増産奨励
2. 水田での小麦、トウモロコシの増産奨励
3. 水田の永久畑地転換の奨励
当然小麦、トウモロコシ、大豆、ジャガイモなどの畑作穀物の増産が必須課題となる。
これこそが食料自給率を引き上げ、食料を通じての安全保障を確実なものにする喫緊の課題だ。
一刻も早く本格的な政策体系を取りまとめて、戦略的に取り組まなければならない。
そもそも我が国は畑作穀物の技術体系そのものが貧困なのだ。それこそ世界中の英知を結集して取り組む必要がある。
しかしますは担い手の育成だ。スマート・テロワール構想の提唱している、人口30万〜60万人の農村自給経済圏ごとに畑作農家のコミュニティを形成し、これを核として推進してゆくべきだ。
つまり推進はあくまでも地域の意欲的な生産者が主体的に自律的に推進し、このコミュ二ティに対して政府、自治体、農協、大学などの関係者が支援する体制を整えるべきなのだ。
今こそスマート・テロワール構想から学びを得て、これを指南書として具体化すると秋至る。
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