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庄内月山高原訪問記

10月16日に庄内こめ工房の代表齋藤一志氏を訪問しました。

齋藤氏は山形県庄内で大掛かりにこめ栽培、集荷、保管、精米、販売、さらには養豚を手がける農業生産法人(株式会社庄内こめ工房)の代表です。

こめは国内需要が先細り、今や主食は小麦の状態になっています。

この環境が続けばこめ中心の農業経営はリスクが大きくなるという危機感を齋藤氏は抱き始めていました。

時を同じくして山形県農業会議の事務局次長の五十嵐淳氏は、スマート・テロワール構想に惹かれて、この構想を実現することを目指して、(有)佐藤測量設計事務所の岡部勝彦氏と(株)アイディアの北風秀明氏の3者で「月山未来プロジェクト」を発足、庄内の月山高原で農地の集約と活性化事業に取り組んで参りましたところ、昨年ようやく5年にわたる地道な活動が軌道に乗り、大規模な農地を活用して穀物栽培が可能になる条件が整いつつありました。

齋藤氏の思いと月山高原の農地集約の動きが同期して、昨年10月に月山高原の農地集約事業を手がける「月山高原農地委員会(事務局長岡部氏)が設立され、齋藤氏はその役員に就任し、集約が済んだ12haの畑で小麦栽培に乗りだしました。

17日に月山高原で秋の収穫祭のイベントが開催されることになり、筆者はこのイベントに参加すべく、16日に庄内入りしました。

この時を捉えて齋藤氏にお目にかかりお話を拝聴する機会を得たということです。

齋藤一志氏から伺ったお話を以下にまとめてみましたのでご覧ください。

 

1.        月山高原での小麦栽培の取り組みでの気づき

(1)     畑作りに思い切った手間をかけた

(2)     対象地区は畑全体の中の窪地の状況にあって、水はけが悪かった。これを整地し平にし、見違えるような畑地になった

(3)     月山高原は畑に石が多く、地中30cmまでの石を全て除去した。石が層の下には良い土質の土壌が存在している

(4)     従来の土壌は表層部分しか耕せていなかった

2.        小麦栽培の取り組みでの気づき

(1)     初年度で500〜600kgの反あたり収量があった。最高収量で630kgを記録した

(2)     将来は反あたり1,000kgの収量が可能になると確信している

(3)     堆肥を入れることが必須

(4)     だだちゃ豆を輪作体系に入れる。来年からテストする。だだちゃ豆は水田転作で栽培しているが、連作障害で5年目には収量がゼロに近くなるという課題を抱えている

(5)     トウモロコシは乾燥設備が必要になる。海外では縦型の乾燥調整装置(2,000万円)をトラクターで引いて、収穫しながら畑で乾燥調整している

(6)     将来はトウモロコシも輪作体系に入れる。子会社いずみ農産で手がけている養豚の飼料が調達できることになる。まさに耕畜連携の実現

(7)     ジャガイモは月山高原では石が多いので無理ではないか

(8)     小麦の農家からの買取価格は農家の持続的経営を前提として50円/kg以上が前提

3.        製粉について

(1)     製粉業者の輸入小麦の買取価格は62円/kg

(2)     全農の国産小麦の生産者からの買取価格は25円/kg

(3)     製粉業者は全農経由で購入すると付加金が上乗せされている

(4)     買取価格が50円/ kg対応可能な製粉業が必要だ

(5)     大手製粉業者のロットサイズは100トン

(6)     山形の地場製粉のロットサイズは10トン〜20トン

(7)     地域にロットサイズ10トン、買取価格50円を可能にする製粉工場を設けないと小麦栽培の推進は難しい

(8)     山大は小麦を35円/kgで仕入れ、小川製粉に製粉依頼し、輸入小麦は4,200円/25kgの販売価格だが、6,000円/25kgでラーメン屋に販売している。将来会社を作るとまで言っている

4.        水田の畑地化

(1)     こめの価格が下がり続けることを前提に、今後はこめ作りをしている自社の水田の畑地化を進めていく。協力農家も乗り気になっている

(2)     月山の裾野は水はけも良いので、暗渠も必要ないだろう

(3)     なだらかな傾斜地なので、栽培時期が少しずつずれる。作業時期が地区ごとにずれることになるので、農機と手間の効率が良くなる

5.        こめから小麦へ

(1)     こめ中心の農業経営が厳しくなるので、こめ一本足打法から脱却する動きが今後急速に展開するのではないか

(2)     輸入穀物の価格も、中国の爆買い、米国の水不足、コロナ禍による物流価格上昇、円安の進行などなどの要因で継続的に上昇傾向にある。食料品の価格が高騰する。自給率を急速に底上げしなければならなくなる。農政もこめから畑作穀物の奨励へと舵を切らざるを得なくなる

 

後記:庄内スマート・テロワールへ

齋藤氏はスマート・テロワールを目指して小麦栽培に乗り出した訳ではないが、齋藤氏の挑戦はまさにスマート・テロワール構想の実現そのものではないかと考えます

庄内スマート・テロワールは齋藤氏のリードで今後大きな前進を遂げて、全国のスマート・テロワール構築のモデルとなって、後に続く方々を導くことになるに違いないと確信しました