厳しくも豊かで美しい自然に囲まれた西和賀町
3月3日に第三回スマート・テロワール協会オンライン・セミナーが開催された。今回は岩手県の西和賀町で農業、畜産業を営むお二人にご登壇いただいた。
西和賀町は三方を標高1,000m級の奥羽山脈に囲まれ、残りの一方が横手盆地に向かって開ける中間産地だ。
この地形によって冬は雪に閉ざされ、累積積雪量は10mに及び、特別豪雪地帯に指定されている。
東西を急峻な山に囲まれ、その東西の山間を南北に和賀川の渓流が流れる大自然に囲繞され、この地ならではの豊かな四季折々の風景や自然に触れることができる。
また湯量豊富な温泉が随所に沸き出していて、湯田温泉郷として多くの観光客に親しまれている。
わらび栽培に挑戦して10年の高橋さん
今回最初にご登壇いただいたのは岩手県西和賀町でわらび栽培、わらび粉製造を手がける株式会社やまに農産の高橋さんだ。
高橋さんは35haの耕地で主に水稲を手がけている。10年ほど前からコメ・ビジネスの先行きが不透明になる中で、より付加価値の高い作物を手掛けようと思い立ち、父母が取り組んでいたわらび栽培に着目し挑戦することになった。
わらびは地上茎と地下根がそれぞれ別用途で価値を生む。地上茎は湯がいてアク抜きしお浸しとして食すればとても美味だ。
地下根はすりつぶしてデンプンを精製すれば、わらび餅としてこれまた上品で美味しいお菓子の原料という価値を生む。
わらび粉はまさに宝石のよう
しかしわらび粉の精製は工程も複雑で長く、機械化も困難なために全面的に手作業に頼らざるをえず、日本でのわらび粉精製はほとんど途絶え、現在では甘藷デンプンがわらび粉の代用として使われていて、本物のわらび粉は高橋さんの所でしか量産できていないという。
高橋さんは3.5haの専用畑でデンプン用わらびを栽培し、約6tの原料を収穫している。そしてこれを精製して最終的にわらび粉になるのはわずかに360kg。歩留まりはなんと6%。まさに希少の極みともいうべき、宝石のようなわらび粉を生産している。
このうち160kgほどが西和賀町にて和菓子店を営む三軒に供給され、西和賀の銘菓わらび餅として販売されている。残りは全国の和菓子店に供給されている。
中でも東京の茗荷谷の近くに店を構える和菓子専門店の一幸庵は、高橋さんのわらび粉を原料としてわらび餅を提供している。このわらび餅こそ知る人ぞ知る銘品と評価され、電話予約しなければ入手困難な状態が続いている。
https://www.youtube.com/watch?v=ZJyMgV4zasU
高橋さんは本物のわらび餅は西和賀でしか生産されていないということをアピールして、観光客が西和賀を訪れる動機づくりに挑戦しようと意気込んでいる。
わらび生産者と3軒の和菓子屋さんの団体戦が今後、西和賀町内だけでなく、近郷の消費者さらには全国からの観光客を引き寄せる成果を上げることを期待したい。
西和賀のハイジ
お二人目の登壇者は菅野牧場を経営する藤田春恵さん。お名前の通り見るからに春のようにほのぼのと明るい感じがモニター越しに伝わってきた女性だ。幼かりし頃はまさに西和賀のハイジと呼ばれていたのではないかというイメージが膨らんだほど。
藤田さんは確か東京農大で畜産を学び、さらに2年ほど米国に留学して畜産の経験を重ね、故郷に帰って実家の牧場を継いで経営している。
現在は50頭ほどを飼育している。
品種はブラウンスイスという珍しい牛だ。日本で飼育されている牛は約135万頭。その中でブラウンスイスは約6,000頭しかいない希少な牛だ。
ブラウンスイスは乳牛と肉牛の双方の性格を兼ね備えている乳肉兼用品種だ。ブラウンスイスは青年期から壮年期まで乳牛として活躍し、搾乳ができなくなった頃に次第に太りだして、肉牛として生涯を終えるという健気な牛なのだ。
藤田さんの牧場では春から秋までは放牧して牧草で肥育し、冬は牛舎でサイレージ化した牧草と穀物で肥育している。
藤田さんは年間約29万klの生乳を西和賀の第三セクター(株)湯田牛乳公社に出荷し、同公社では生乳を湯田牛乳、湯田ヨーグルトに加工して販売している。
https://www.youtube.com/watch?v=iAEQfAv1QgY
また牧場では自家加工でチーズを販売しているさらに牛肉は生肉として供給される。赤身だがけっこう脂身もあってほんのりミルクの香りがして美味しいという。また自家加工でソーセージを販売している。ソーセージもほんのりミルクの香りがして、オレンジワインによく合うということだ。
放牧で牧草を食べながら運動量も多いということで、牛乳も肉も美味であることは間違いなしだ。
https://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2015/12/10501.html
藤田さんの牛乳と牛肉そしてチーズやソーセージなどの加工品はまさに地消地産の商品として地元や、近郊のテロワールの消費者に受け入れられ、支持されているのだろう。
そして藤田さんの牛乳や肉牛を加工する湯田牛乳公社や屠場との互酬関係が地消地産の活動を支える柱の一つになっている。
生産者と加工業者そして消費者との連携が地域自給圏を構成し、この連携がさらに自覚的なものに形成されることでスマート・テロワールの萌芽が確実に生まれていくことが期待できるに違いない。
藤田さんの報告からその確信が深まった。
お二人のお話を聞いて
二つのことに気付かされた。
一つは農業や畜産業は家族経営が基本であり、したがって家族を構成する女性の活躍が大前提にあるということ。当たり前の話だが、経営をリードしたり、支えたりする女性の存在無くして農畜産業経営は成り立たない。
さらに食生活や食文化をリードするのも女性が原動力だ。とするとスマート・テロワール活動も女性のリードが不可欠ではないかということだ。
協会の役員構成も大いに見直しが必要だ。
二つ目の気づきは高橋さんと藤田さんの交流がさして活発に行われてはいなかったという驚きだ。もちろんお二人は相互に顔見知りではあったと思うのだが、今回の講演会の場で初めてお互いの活動の全貌をより深く認識する機会をもったのではないかということだ。
第三者から見てお二人は農畜産業の領域で日本でも最先端の活動をされておられる。このお二人が相互に交流して互酬関係を形成して、そこにさらに多くの地域住民が何らかの形で繋がって、30年先のビジョンを共有することができれば、地域自給圏の構築は確実に一歩を踏み出すことになるだろう。
やまに農産(株)高橋氏のワラビ粉を使っているお店の紹介
工藤菓子店 〒029-5505 岩手県和賀郡西和賀町湯本30地割82−1 TEL:0197-84-2606
WebサイトURL : https://kudokashiten.jp/index.
お菓子処たかはし 〒029-5505 岩手県和賀郡西和賀町湯本30地割8−2 TEL:0197-84-2917
WebサイトURL : https://okashi-takahashi.raku-
わらび餅カフェ団平 〒029-5507 岩手県和賀郡西和賀町大沓36地割26−4 TEL:0197-82-2398
WebサイトURL : http://www.danpei.co.jp/
酪農家藤田春恵氏の加工品の購入先のご紹介
藤田様の加工品の購入はFacebookページからお問合せでの注文となっております。
Facebookページ 左草ブラウンスイス https://www.facebook.com/
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