小麦の美味しさを麺・パンにつなぐ製粉業が参画、庄内

この記事は『農業経営者』2021年1月号に掲載されました。

同誌編集長昆吉則氏のご好意により転載させていただきました。

 

山形県東根市の小川製粉が2012月、庄内産小麦を製粉して小麦粉の販売を始めた。これまで庄内スマート・テロワールの活動では山形県外に製粉を委託し、ラーメンや麦きり、パンを提供する飲食店に供給し、加工の実績をつくってきた。20年度産の収量が小川製粉の最小ロットに達したのを機に山形県内での製粉に踏み切った形である。域内で生産から製粉、加工、販売までがつながったことにより、今後、本格的に「庄内スマート・テロワール 庄内産小麦」として流通させていく。
今回、製粉を担当した小川製粉の小川祐史氏(35)に話を聞いた。


それぞれが役割を果たし地域で連携する


小川製粉は1947年に創業した山形県唯一の製粉会社

である。小麦粉のほか、小麦グルテンと小麦でん粉を製造販売している。小麦グルテンは小麦粉に加えるとよく膨らむパンや伸びにくい麺になるもので、フリーズドライ製法の自社商品「Oグル」は品質にこだわる製麺業や製パン業などにニーズがある。大手数社がシェアを占める製粉業界のなか、小川製粉は大手が参入しにくい分野に注目し、小麦グルテンのほか地域の農産物をフリーズドライ加工するなど、特徴ある商品づくりに挑戦している会社だ。
「他社がやらないことをやって、食に関わるさまざまな人たちの役に立ちたい。本当に良いものづくりをして、選ばれる会社になることを目指している。小麦粉というのは、どんなに製粉の機械化が進んでも製粉会社の個性が出るものだ」
小川製粉はこれまで製粉業の使命として良質な小麦粉を挽くことに専念してきた。しかし、これからは工業的なアプローチだけではなく、農業レベルまで掘り下げたさらなる知見が必要だと感じていたという。そのような折、庄内スマート・テロワールの小麦チームMD(マーチャンダイジング)から参加してほしいという声がかかった。

「熱意ある生産者や研究者の方々とのご縁がとてもうれしく、ぜひ参加させてほしいと答えた。そして皆さんの想いを肌で感じ、一緒になってこの人たちの役に立ちたいと心から思った」
小麦チームMDは小麦の生産から加工、販売までをつなぐ活動や品質向上の取り組みをしている。
小麦チームMDのメンバーは山形大学農学部と生産者、酒田ラーメン店の花鳥風月。そして小川製粉が19年に加わり定期的に話し合いを重ねてきた。
小川氏は、生産者から実需者へバトンをつなぐ立場として、そのあり方と責任の大きさを感じている。
「小麦は硬いので粉にしないと食べられない。生産者さんたちがつくったダイヤの原石を磨き上げるのが製粉会社の仕事。色んな人たちの想いに応えていくことで、結果として美味しい小麦粉ができ、その経験が自社の自信とやりがいになっていくはずだ。それぞれの立場で役割を果たし連携したときにスマート・テロワールができると思う」


品質向上による麺・パン向け需要拡大に期待


小川製粉ではこれまでも山形県産ゆきちからの製粉、販売をしてきた。ゆきちからは本来、製麺や製パン向けの硬質小麦である。しかし山形県産のタンパク質含有量は約9.5%(製品時)で少なく、ラーメンやパンに山形県産小麦を使いたいと思っても、誰でもうまく使えるものではないというのが実情だった。
庄内スマート・テロワールとして生産した小麦は、このタンパク質含有量を上げるなど品質向上を目指してきた。今回、20年度産のタンパク質含有量は玄麦で11.5%に達し、従来の山形県産の平均値を超えることができた。小川製粉が製粉した小麦は、庄内3軒の生産者が6月末に収穫した20年度産の秋まき小麦ゆきちからである。20年度産は作付面積3.ha、平均反収498kg、収量は計15t。乾燥調製して半年ほど寝かせ、品質が安定したタイミングで製粉した。


「ラーメンやパンに必要な小麦粉のタンパクは、およそ11%(製品時)が目安。いままでタンパクが低いから使わなかったというお客様も、使ってみたいという気持ちに変わり、一気に需要が増えるだろうと思っている」
今回製粉した小麦粉は、庄内スマート・テロワールに参画している飲食店からの予約で製粉時に完売した。小川氏は、より多くの飲食店や製麺・製パン業に希望の量を供給できるように、より多くの生産者に参加してほしいと話す。小麦チームMDの目下の課題も、庄内スマート・テロワールに賛同する生産者を増やし生産量を増やすことである。

「流通量が増え、山形県産小麦があって当たり前になるぐらい多くの人に知られるようになることを願っている。そして食べてくれる方々の期待を超え、感動してもらえるような品質をチーム一丸となって目指していきたい」

【包装デザインに込めたメッセージ】
メッセージは2つ。ひとつは庄内産小麦を通じた地元愛。庄内産小麦に愛着を持ってお店自慢の美味しいラーメンやパンをつくってもらい、生産者から生まれ加工業者を経て食べる人まで庄内産小麦への愛をつなげてほしい。もうひとつは地域の多くの人々がまとまること。庄内産小麦をつくりたい人と使いたい人がたくさん集まり、できるだけ量を増やし品質を安定させて庄内産小麦を強くしたい。(山形大学農学部 中坪あゆみ助教)