コロナ禍で明らかになったこと

 このブログは農業技術通信社発行『農業経営者』2020年6月号に掲載されました。

同社社長昆吉則氏のご好意により転載させていただいております。

コロナ禍において明らかになったことの一つが国家中枢の機能劣化だ。あらゆる防疫対策が後手後手に回り、遅ればせの対策が実行に移されてもその規模があまりにも過小であることに国家中枢の機能劣化が表面化している。
巨大官僚機構は長年絶大な許認可権に基づく権限の行使と天下り先の拡充に専念してきたために、危機にあっての有効な政策企画、実行の能力を喪失していたことがあらわになった。

一つの事例がPCR検査の実態だ。コロナ対策で成果を上げている韓国や台湾では早くから大量のPCR検査を実施してきたことが最大の成功要因だ。検査に基づいて陽性者を軽症、中症、重症にトリアージし、それぞれに特化した隔離施設に送り込んだ。また軽症者についてはGPSを活用して行動監視を行い、個別に外出を禁止し、また健常者が不用意に感染者に接触しないためのアラームシステムを構築した。

 

日本ではPCR検査をきわめて狭い範囲に制限してきた。しかも韓国や台湾の成功事例の学習をせずに未だに検査を抑制し、軽症者のための隔離施設も不十分のままでの自宅待機が続き、急な重篤化で死亡する事例が多発している。

このようななか、政権中枢のこの迷走に危機感を抱き、早くから大量の検査を実行して成果を上げた事例がある。和歌山県だ。和歌山県の共済会有田記念病院で集団感染が発生したとき、県は国とは異なる独自の判断で病院のスタッフと患者のすべてにPCR検査を実施し、陽性者を隔離したことで医療崩壊を免れた。この事例は危機にあっては現場に近い自治体の首長やスタッフが身近な情報を共有し、的確な対応策を繰り出して危機に対応することが可能だということを示している。
つまり危機においては地方により大きな裁量権と資金を与え、地域密着で最適な対応を実施することが必要になるということだ。そのとき政権中枢は地域が実行する政策に邪魔になる規制を排除し、また地域が必要とするヒト、モノ、金を必要なだけふんだんに提供するサポート役に徹すれば良いのだ。コロナ禍の収束後には地方分権を基礎原理とする新しい社会の形が現れていることを期待する。