このレポートは『農業経営者』6月号から、
同誌編集長昆吉則氏のご好意により転載させていただきました。
長野県農政部は、
17年4月から5年間の予定で地域食料自給圏実証実験事業を始め、
今年4年目に入った。
小諸市にある長野県野菜花き試験場の佐久支場では、
畑輪作の実証実験を担当している。
3年を経て、輪作と連作の違い、堆肥の有無の違いが数値で見えてきた。
長野県農政部の実証実験は、
畑輪作、耕畜連携、経営的評価、加工実証、消費調査の5つある。
消費調査については長野大学が担当している。
畑輪作については、小諸市にある長野県野菜花き試験場の佐久支場で実証中だ。
3月まで支場長を務めていた山口秀和氏(現:長野県野菜花き試験場長)に、
19年度の試験の結果と考察を聞いた。
数値に現れた堆肥の効果
畑輪作の実証実験では、
連作と輪作、堆肥有りと堆肥無しの場合を数値化し比較することが目的だ。
そこで、4つの作物を次の3つの区に分けて栽培をしている。
(1)輪作・堆肥区
(2)輪作・無堆肥区(化学肥料のみ)
(3)連作区(化学肥料のみ)
(1)と(2)の輪作区では、
ブロックローテーション方式でA区~D区を設け、
4つの作物をジャガイモ→小麦→子実トウモロコシ→大豆の順に輪作している。
試験の仮説は、
輪作・堆肥区の収量が多く品質も高い結果が出るだろうというものだ。
19年の結果は次のとおりである。
ジャガイモは、
仮説通り輪作・堆肥区の収量が最も多く、
重量もやや高い傾向にある。
しかし、連作区でも収量が良好だった。
でん粉価に相当する比重は、
輪作・堆肥区よりも輪作・無堆肥区や連作区のほうが高かった。
輪作区では6月~7月の雨で湿害が起きた影響もあり、
いまのところ仮説と異なる理由は特定できていない。
小麦は、仮説通り輪作・堆肥区の生育が良かった。
稈長は長く、穂数は多く、子実重(収量)も高いという結果が出た。
試験に使用したゆめかおりは製パン性に優れた硬質小麦である。
3つの区ともタンパク質含有量は13.2%以上と基準値を超える高い値であった。
大豆は、8月のひょう害や9月の少雨の影響が収量にも影響した。
輪作・堆肥区では生育が良く、精子実重(収量)も100粒重も高いという結果が出た。
山口氏は、堆肥の施用が肥大促進効果をもたらすと考察している。
子実トウモロコシも8月のひょう害や10月の台風の影響を受けた。
輪作・堆肥区では収量が高く、
連作区では折損や倒伏の発生が多く低収だった。
以上の結果から、ジャガイモを除く小麦、大豆、子実トウモロコシについて、
堆肥を施用する効果が数値にも現れてきた。あと2シーズン、同じ試験を続ける。
微生物性にも変化
畑輪作の実証試験のもうひとつの目的は、
土壌の物理性、化学性、生物性の推移を調べ、
輪作と連作の違いを数値化して評価することだ。
物理性は土壌三層(固相・気相・液相)を測定した。
仮説は、輪作・堆肥区の3つの相のバランスがよいことである。
しかし、まだ輪作が一巡していないこともあるためか、
3年目の作付作物の違いによる差が大きく、
輪作と連作の間に著しい違いは見られなかった。
化学性は、輪作・堆肥区と、大豆の連作区で、
腐植含量と塩基置換容量(CEC)が増加傾向にあり、
トウモロコシ連作区では腐植含量が減少傾向にあった。
微生物性は、バイオログ法とSOFIX法で測定したところ、
輪作・堆肥区とジャガイモの連作区で微生物多様性が高く、
総細菌数が多い傾向が見られた。
輪作・堆肥区では輪作・無堆肥区に比べ、
微生物性に変化が現れてきたと言える。
ジャガイモの連作区で微生物性が高く、
前述のとおり収量も高いことについては、
今後の試験結果と考察が待たれるところだ。
なお、窒素循環活性は輪作・堆肥区とトウモロコシの連作区でやや高いという結果だった。土壌分析の結果、全試験区でリン循環活性が低いという問題がわかったため、
今後、試験を通じて策が求められる。
食料自給圏の起点は、実証試験中の畑輪作による穀物の生産である。
そのためには余剰水田の転作や乾田化により、
畑輪作の技術を導入していくことが必要になる。
今後、生産者が実証試験の成果を活用していけるような仕組みづくりが求められる。
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