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真の「契約栽培」とは

以下は「スマート・テロワール協会」の前会長松尾雅彦氏が『農業経営者』2018年2月号に寄稿したコラムです。出版元の農業技術通信社昆社長のご好意で転載させていただいております。

このコラムは松尾氏の絶筆となりました。

 

「契約栽培」の本当の意味

 

ちまたで使われている「契約栽培」とは、「先付け予約取引」程度の内容です。ジャガイモの契約栽培では、約100円/kgの青果が、加工してポテトチップになると500円ほどになります。これは加工の手間が上乗せされるためだけではなく、収穫時の品質に関わっています。ブドウとワインの関係に置き換えると、加工(醸造)工程で100円のブドウ液汁が、200円のワインになるか1000円になるか、これを分かつのはブドウの収穫時の品質です。そのため、品質規格をあらかじめ「契約」にしておくのです。収穫作業する日の事情により作物の品質は大きく変わるので、そのリスクを生産者と加工者がどのように正当に負うのかを約定することが「契約栽培」です。米国では1960年代にJ・R・シンプロット氏が適用し、日本では70年代に松尾孝氏がジャガイモで採用しました。

収穫日に潜むリスク


 ジャガイモでもブドウでも、収穫に至る前と収穫日の天候により収穫物の品質がかなり違います。もっと高い品質にしたければ収穫を遅らせるという判断もありますが、明日の天気予報が雨ならば、我慢して今日の収穫としなければ品質は台無しになります。


 農産物と加工食品の価値の結束点は収穫時


 収穫時の品質は加工に供した場合の価値によって大まかに3種類に分けられます。その価値の評価を事前に約定します。収穫時の品質に関わらず美味しいポテトチップにしなければお客様のためになりません。そこで、品質の低いジャガイモは収穫して短時日で製品にし、品質の高いものは長期貯蔵して翌年の春ごろ製品にします。


 非市場経済……「互酬」ということ

 


 「契約栽培」では、農家、加工業者、消費者の価値観を調整し、損得意識を通常の市場経済=需給により価格が変動する方式の経済から脱皮し、利害対立のないルールに変えることで、食料の地域内循環型システムを構築することができます。

欧州の地域ブランドのワインやチーズ、手作りハムなどは非市場経済社会のシステムによって運営されています。つまり、需給が決めているのではなく、品質に対する信頼性が決めているのです。