以下は「スマート・テロワール協会」の前会長松尾雅彦氏が『農業経営者』2017年12月号に寄稿したコラムです。出版元の農業技術通信社昆社長のご好意で転載させていただいております。
トランプ大統領は自由貿易主義と戦っている
北朝鮮問題の帰趨が心配されるなかで、米国大統領のドナルド・トランプ氏が周辺国を一巡しました。アジア歴訪で印象づけられた彼の姿は、米国産業のセールスマンとしての姿です。米国の貿易赤字の大部分を占めている相手国は、中国と日本だからです。彼の奮闘は、おそらく世界中のマスコミを敵に回しています。しかし、彼が戦っているのは、従来の米国流の市場自由主義です。米国は、市場自由主義に基づく貿易ルールで、率先して市場を開放したために、大きな赤字に陥りました。その反省から、TPPなどによりさらに市場開放を拡大する措置に断固反対しています。
米国の苦難は、日本の明日の姿
国を開いて豊かになるのは、その国の為替レートが相対的に安いときです。高くなれば、自国でつくるより外国から買ったほうが安くなるので、多くの国が貿易赤字になります。日本の為替は、1985年のプラザ合意により、1ドル240円台から120円台に短期間で2倍になるという円高が進行しました。今や日本は、東芝問題のように電器やその部品を輸入するようになりました。やがて電気自動車の開発が進むにつれ、日本の産業の基軸とされてきた自動車も輸出から輸入に移るときを迎えます。米国が貿易赤字に苦難する姿は、明日の日本の姿です。それでも自由貿易が普遍的な価値と思うことは不自然なのです。
トランプ流は米国が自由貿易から撤退するには必要なプロセス
トランプ氏の手荒すぎるアプローチは、「Creative failure(創造的失敗)」と批評され、次期大統領選挙で敗れるかもしれません。しかし、世界がさらに自由競争の市場を拡大していけば、巨大企業の投資家に富が集まります。それは各国の経済が弱まっていくことなので、望ましいことではありません。強者が自由を謳歌するのではなく、弱者の生存を確保し、地域の経済が元気に息づいてこその世界です。その世界をつくるためのキーワードは「サステナビリティ(持続可能性)」と「ダイバーシティ(多様性)」です。
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