日本の喫緊の課題を逆転する

以下は『農業経営者』2019年7号「スマート・テロワール通信23」に掲載された記事を転載させていただきました。

 

624日の日経に次のような記事が掲載された。「日銀がめざす消費者物価指数(CPI)の2%上昇が遠い。人手不足による人件費の上昇を受け、企業間取引では値上げが広がっているのに、消費者への転嫁は鈍いままだ。企業はセルフレジのような人手を省く設備投資で、コストの増加を吸収しようとしている。こうした努力は日本経済の活力を保つためにも重要で、過去よりも高めの物価上昇を狙うことの妥当性も問われる」

この記事の論調は疑わしい。そもそも賃金は上昇しているとは言えないからだ。企業は女性や外国人などの非正規雇用の増加で人手不足をしのいでいる。労働市場に新規参入した労働人口が増加したことで賃金支払い総額は増加したが、平均賃金は下がりこそすれ上昇はしないという構造になっている。つまり、賃金は上昇していない。従って消費が増えない。需要不足が物価上昇を阻んでいるというのが事実だ。いつまでたっても物価の上昇する気配がないので、政府は物価上昇2%目標を早々に引っ込めつつある。

ジェイン・ジェイコブズが著書『発展する地域・衰退する地域』で喝破したように、マクロ経済学の成果に立脚して国民経済規模でのマクロ経済政策を実行する試みは『楽園に住む愚者』の戯言に等しく、いつまでたっても狙った目標には達成できない。

全国規模の経済政策は、どれほど精緻な理論体系に基こうとも社会主義国での計画経済政策の亜流でしかないからだ。すべての計画経済システムが頓挫したように、その亜流であるマクロ経済政策も残念ながら成果は期待できない。

ジェイン・ジェイコブズが言うように、経済政策は全国規模ではなく地域限定の規模でのみ有効性がある。農村や地方都市の衰退が著しいこの国において、いまこそ地方からこの国を再建する地域政策を模索し、実行することが求められている。諸地域の多様な再生政策が軌道に乗ることによって、マクロでの経済再生が実現できるという道筋こそが求められなければならない。

 

スマート・テロワールの志向するビジョンは、まさに農村再生、地方再生そのものだ。地域に食料自給圏が形成され、農畜産業と地場食品業が活性化すれば、地域内に大きな経済効果がある。その論拠は前回述べた通りである。食料自給圏が全国の3分の1の人口をカバーするエリアに100個できれば日本は豊かに生まれ変わることができる。